くらしの窓口NEWS
「相続対策がしたいので、家に来て父を説得してくれませんか?」
と切羽詰まった顔でお子様が私のもとに相談に来られることがあります。
しかし、私は応じられず、首を横に振ります。
相続対策をしてほしいとお願いをすることは専門家がやるべき仕事では
ないからです。
多くの場合、相続対策は、「財産を遺す人」が行わなければならないものです。
子どもなど「財産を受け取る人」がどれだけ勉強して相談に来ようとも、
「財産を遺す人」の心が動かなければ、対策を実行に移すことはほとんどできません。
「財産を受け取る人」はいずれくる問題として相続対策を重くとらえています。
〇兄弟でけんかをしたくないから、遺言書を書いてほしい。
〇お金になる財産は欲しいけれど、借金や処分できない田畑山林などはほしくない一方、「財産を遺す人」は「財産を受け取る人」と同じように考えているとは限りません。
〇兄弟の仲は良いから遺言書がなくても大丈夫。きっと争いごとなんて起きないだろう
〇そもそも相続税は自分が払う税金ではないので、どうでも良い。
そもそも、「財産を受け取る人」と「財産を遺す人」では、利益が相反することもあります。
例えば、贈与すると自分の財産は少なくなります。
生命保険に加入すると、払ったお金は自分のものではなくなります。
相続税は亡くなった方が支払う税金ではありません。
また、相続の手続きで手間がかかろうが、遺産分割で裁判になろうが、大変なのは亡くなった方ではないのです。
相続対策にはお金がかかるため、損得勘定でいえば、相続対策をしない方が、お金は手元に残るのです。
ここでの問題は、「財産を遺す人」が「財産を受け取る人の利益を自分の幸せと感じるかどうか」という一点に尽きます。
相続対策は「苦い薬」ばかりです。
基本的な法律の知識がないと理解できないため、
それなりに勉強も必要ですし、対策を実行するには時間も費用も労力もかかります。
「遺す人」が「溢れんばかりの愛情」を持ちあわせてなければ、そもそも損をしてまで実行することはできません。
冒頭でお話したご依頼については、一緒に来ていただければ、相続対策のお話はします。
しかし、私たちは「相続対策のプロ」でありますが、「愛の伝道師」ではありません。
お父さまに、相続や相続税についてお話することはできます。
しかし、「家族愛」については、私から話を聞いたからと言って、
急に芽生えたり、育まれたりするものではないでしょう。